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君の髪が乾くまで
やや小雨になった夕立を窓越しに眺め、僕は後悔の言葉を灰色の空に並べていく。なぜ別れ話を自宅の近所で切り出してしまったのか。揉めているうちに急な雨に降られたところで、どうして僕は彼女を連れて自宅に避難してきてしまったのか。
彼女を呼び出した公園から自宅までの間にあるコンビニの数を数えてみる。あの中の一つに逃げ込むだけでよかった。そして一本ずつ傘を買い、さようならで終われたはずだ。そうできなかったのは彼女が納得しきっていなかったこともあるけれど、やはり自分の中に違う理由があるのだろう。
「何度目かな、ここに来るの」
背後からの声に振り向く。
脱衣所で着替えていた彼女、紗英が僕のTシャツとジャージを着て出てきた。肩までの黒髪をタオルで拭っている。
その向こうで乾燥機の駆動音が響いている。
「数えきれるうちに別れるべきだったな」
「まだ、そんなこと言ってるの?」
「そっちこそ」
腰の下まで余った裾を片手で握りしめる紗英に笑いかける。彼女は聡明で、目のない話に期待を抱くようなことはしない。言葉では別れを拒絶する風だが、すでに表情は諦観の念で覆われている。
「服が乾いたら帰れよ」
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