君の髪が乾くまで

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「私の着替え、置いてないんだね」 「この間お前の部屋に行ったときに持って行っただろう?」 「あのときから、別れるつもりだったの?」 「なんとなく」 「そう……」  別れると決めた以上、紗英を思い起こさせる物は部屋に置いておきたくなかった。だから彼女の着替えは全て、先日返してしまったのだ。 「ねえ、聞いてもいい?」 「何?」  ソファに腰掛けながら応える。紗英も僕の隣に座った。僕らの間には、一時期では考えられもしなかった隙間が空いている。 「私のどこが嫌い?」  自嘲するような笑みを浮かべて問いかけてくる。 「嫌いなところなんてないさ」  紗英の大きな瞳が責めるように色を変え、 「なら、どうして別れる気になったの?」  どこか冷めた口調が他人事のように感じさせる。  どうして、か。  静かに自問する。 「前みたいに、情熱的でいることができなくなったからかな」 「何それ」 「最初の頃は初恋みたいに愛せたんだ。一途に、がむしゃらに。でもいつからか、そうじゃなくなってた」 「飽きたってこと?」     
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