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序章:コトの発端は…
死に場所を選べるとしたらどんな場所で死にたいだろうか。
突然こんな質問をして訳が分からないと思うが聞いてくれ。
この世界のみんなはもしも、死ぬとするならばどこで死にたい?
俺が選ぶとするならばやっぱり故郷の街を見下ろせるあの丘がいい。あの丘に登って故郷の優しい風と健やかなる大地に包まれて、息を引き取る。それ以上に幸せな死に場所などこの世界には存在しないであろう。
さて――
どうして俺が誰も聞いていないのにこういう話をするかというとどうやら俺は……死ぬらしい。
可愛い女の子をかばってかっこよく死ぬわけでも戦場で奮闘むなしく華々しく死ぬわけではない。十数年あまりの人生の終焉には物語のような美しい死などはなかったのだ。
俺は臭い泥の中で雨と戦友たちの血と混じり合いながら有象無象と化して死ぬのだ。
虚ろな目でかつての戦友の1人を見つめる。俺の目線の先にはトムがいた。年齢と故郷が近いこともあって俺とトムは数少ない親友と呼べるだけの間柄であった。しかし、目の前に存在するのは骸。かつてトムであった死体。色のない表情は苦痛で歪んでいた。
トムであった死体には複数の矢が刺さっておりそれが彼の死因であることがわかった。そして、それは俺の死因でもある。もうほとんど感じないが背中には鋭い痛み。
背中だけではない腕や足にも同じような痛みがある。幸いにも急所は外れているがそれはただ苦痛を感じる時間が伸びただけの世知辛い幸福だ。
まだ頭が…息が…俺の感情が動く。
走馬灯のように嫌な思い出がフラッシュバックする。
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