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不敵な笑み。嫌な笑みだ。人を踏みにじることを躊躇しない貴族の笑みだ。だから、貴族が嫌いだ。俺は足に力を込めて剣先をモルフへと向ける。
足の怪我ごときで元勇者候補の俺を封じることなどできない。断崖とはいえ十数メートル。俺の能力であれば十分に飛び越えられる高さだ。それにモルフの腕前は知っている。いくら崖の上が奴の兵でひしめき合っていたとしても奴の首を取ることなどたやすい。
「そこでほざいてろっ! 今すぐ殺してやる!」
しかし、俺の威勢は続かなかった。崖を飛び越えようとした矢先、俺に向かって何かが放たれた。
それは決して弓兵から放たれた矢ではない。もっと高度で威力の高い攻撃だ。かろうじて左腕を掠った程度で済んだが、それはおそらくたまたまだろう。
「初めまして、レオ殿。わたしはシュベルツ王国騎士団第3騎士隊隊長エリック・トルストイだ」
銀髪の騎士。雨の中だというのにその男の気配は非常に濃密に感じられた。
「レオ殿。あなたは殺すには惜しい方ですが……わたしの目的のために死んでもらいます」
エリック・トルストイ。始めて聞く名前だが、相対するだけでかなりの腕前だとわかってしまう。
「ほっほっほっレオ殿。そちらにおりますのは我らシュベルツ王国騎士団の若き天才。いくら君が元勇者候補だとしてもその怪我では勝ち目はない」
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