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■□ 神暦1342年 馬月3日 シュベルツ王国国境・セントブルム砦 □■
「モルフ騎士団長!」
そう呼びかけるとシュベルツ王国騎士団団長モルフは怪訝そうな顔で俺を見る。前線だというのに戦闘用の甲冑は身に着けず白い貴族衣を身に着けている。彼は小さく舌打ちをすると急に笑顔になった。
「どうされましたか? レオ殿、そんなに顔をしかめられてはせっかくの端整なお顔も台無しでございますぞ」
貴族騎士らしい媚びたセリフに吐き気を覚えつつも俺は訴える。
「なぜ我が故郷、ハイレルトを見捨てたのですか」
このセルトブルム砦には1万もの兵士が常駐しているというのに彼らは俺の故郷、祖国へ援軍をよこさなかったのだ。
「その件ですか、誠に残念ではありましたが……あの時の我々や彼らには”勇者”がおりませんでしたからね」
嘲け笑うかのように彼が答える。”勇者”がいなかった。それは事実であるし、”勇者”がいなければ戦争には勝てないであろう。
「しかし、それでは今もこちらへ向けて進軍している魔王軍にどう立ち向かえというのですか」
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