第2話 獣耳戦士と元勇者候補

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 元々はシュベルツ王国とハイレルト王国を結んでいた街道なだけあってメンテナンスはバッチリで歩きやすく、怪我人である俺にも優しい。  捕虜になってもう数日。  初日は怪我でゆっくり歩くのがやっとだったが、今では大分回復してきた。ストレッチをしても傷口は痛まないし、走っても傷口が開いたりしない。まぁ、俺の傷のほとんどが矢傷だったから治るのは早い。  この調子なら俺の目の前にいる彼女から逃れることも可能だろう。最初からそのことは考えていた。  このまま彼女に着いていけば魔王軍に正式に捕虜として拘束され、最悪だと処刑される。魔王軍の中でも悪魔族は人間に対して残虐(ざんぎゃく)だ。聖騎士団の話によれば、魔王軍に陥落させられた都市のほとんどで悪魔たちによる人間の処刑が行われているらしい。  そんな恐ろしくて残虐な奴らの手に下るくらいならいっそあのまま人間の手によって殺された方が良かったのかもしれない。  しかし、そこまで行き着いた思考をぶんぶんと薙ぎ払う。俺は忘れない。あの雨の匂いを。血と雨が混じった濃厚な死の匂いを。  友人であるトムが殺された。出会ったばかりだけど、戦友たちが殺された。仲間だと思っていた騎士団に殺された。あれほど理不尽で残虐な殺しは認めるべきではない。  だから、あのとき殺された方が良かったなどとは二度と思わない。     
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