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そして、目の前に広がる惨状を目の当たりにしたのだ。開戦以前は辺境の地だということでふんぞり返っていた奴らが泣き言を呟きながら撤退していく様。肉が引き裂かれるような不快な音があちらこちらから聞こえたのだが、魔法の音はほとんど聞こえない。
もしも、未だに戦意のある兵がいれば聞こえるはずの戦闘音と呼べるものはそこになかった。
「デモン殿。正規騎士がこれでは……」
歯がゆい。デモンの配下の一人が告げるように今回の闘いの主戦力はシュベルツ王国の正規騎士である。数こそは他の国からの遠征軍よりも少ないが魔法を扱え、剣の腕にも自信のある騎士が数多く参戦していたはずなのだ。
「……終わりだなここも」
この戦場を見れば結果は明らかだった。デモンたちにはまだベルモット敗北は伝わっていなかったが戦場を見るだけで何か途轍もない敗北をしたのではないかと薄々感じてしまう。
そして、予備部隊が呼ばれた理由がコレなのかとデモンはようやく得心した。
魔王軍の侵攻は北東方面からと予想されたため、アセイム宿場街の住民は南側に避難している。デモンとその配下はベルモットより借り受けた1個兵団とともにその護衛をしていた。
よほどのことがない限り戦場への参戦はあり得ないと踏んでいたが、そのよほどのことが起きてしまったのだ。
「生き残りを集めて南へ撤退するぞ」
「デモン殿。騎士団からはここの防衛の指示が――」
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