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■□ 同日 シュベルツ王国国境・セントブルムの森 □■
鬱葱と生い茂る原生林。セントブルムの森は俺の故郷であるハイレルトとの国境に面しているためか中々の密林となっている。街道はあるにはあるがそこには巨大な城門があり、いくら魔王軍と言えども突破するのは骨が折れるだろう。
そう言った見解もあってか、元勇者候補の俺ことレオ・アストレアは街道から離れたセントブルム砦に配属となったのだが。どうやら俺は厄介者らしい。
この砦を任されているのはシュベルツ王国の貴族騎士と名高いモルフ・デェッペリオン。
たしかに騎士を名乗るほどの腕前は持っているし、貴族らしい性格を除けば良い騎士だといえよう。
しかし、その貴族らしい性格のおかげか平民出身の元勇者候補は気に食わないとな。
一般兵はともかくとして砦にいる騎士はほとんど俺を避けている。皆、モルフの機嫌を損ねたくないのだ。
幸いなのかどうかわからないが、少なくともその影響は俺の兵団にはないようだ。これから初仕事というのに兵団の人間は勇ましい顔つきで俺を覗きこんでいる。あるものは敬意を抱き、あるものは野心を抱き、あるものはこれから戦いだというのに笑みを浮かべている。
少なくとも俺に対して悪意や害意は持っていないようだ。
「一個兵団+αってとこか……元勇者候補にしては少ないが、あのモルフ騎士団長殿にしては気前がいいじゃないか」
「お前、トムか……どうしてここに?」
ふと、俺の隣に立つ青年がいた。彼の名前はトム。俺がハイレルトで騎士をやっていた頃からの戦友だ。名前と出身地以外は何も知らないけど、同じ釜の飯を食い、共に戦場を駆け巡った数少ない親友だ。
「そりゃあな、お前についてきたんだよ。1人だと何かと心配だろ」
トムはたしかアレスタル王都勤務だったはずだ。それなのにわざわざ危険な前線まで来てくれるなんて。
「ありがとうトム」
「いいってことよ。それに俺もハイレルトの件が気になってな」
トムの出身はハイレルトにほど近いところだと聞いている。もしかしたらトムの生まれ故郷も先日の戦いで焼けてしまったのかもしれない。
「そうか、でもありがとう」
トムの真意はわからないが俺にとっては心強い仲間が増えたので特に真意を聞く必要はないだろう。
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