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相手はーーあの場で尋ねるのははばかられたので名前は知らないーー、お目にかかれないくらいきれいな人だった。たぶん神上より年上。見かけたことがないので、外部の人かもしれない。美しい物語の登場人物のような人で、佐野は一瞬にして目を奪われた。
神上と同じく外国の血が混じっているのだろう彼は、肉付きの薄い体にみずみずしい白雪のような肌をまとっていた。長め前髪の間からのぞく瞳は、大きなベキリーブルーガーネットと錯覚するくらい煌煌しい。薄く色ついた小さな唇は、つい啄ばみたくなるようないじらしさがある。
途中まで女かと思っていたが、そのあとの応酬で男だと知り、ど肝を抜かれた。男だと知ると、ジェンダーレスな容姿はいっそう倒錯的で、彼という存在に興味を掻き立てられた。
シーツに隠れた彼の細部はどうなっているのだろうかーー、……想像すると胸が踊った。ーーまあ神上に阻まれたおかげで、考えを中断せざるを得なかったのだが。
神上は自分のつがいをとられまいと威嚇した。正直、佐野が考えていた斜め上をいっていて、しばらく呆気にとられた。
佐野の興味はあくまで美術的興味であって、下衆な目で見ていたわけではない。
佐野もアルファだ。つがいはまだいない。
アルファの噛み跡がついたオメガにちょっかいをかけることほど不毛なことはない、というのが持論だ。
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