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つがい持ちのオメガは、つがい以外のアルファに触られたりするだけで、吐いたり、気分を悪くしたりするらしい。そんなの、かわいそうだし、第一にそこまで拒絶されてコトに及べる気力が自分に残っているとは思えない。
けれどそういい諭すには、後輩の気の立ちようが尋常ではなく、佐野はその場からすぐさま退散したのだった。
「それにしたって、俺らまだ学生だろ? 神上なんか、ちょっと前まで中学生だったし。いつ作ったんだよ?」
「最近です。ーーもう三ヶ月になるかな」
「げ。じゃあ俺と住み始めてから?」
「はい」
「うわぁ……マジか。ーーもう子どもいたりしてーー…、なんて」
「いないです」
さすがに子どもはいないらしい。いたら寮なんて入れてないか、と思い直した。
それにしても、色恋に興味のなさそうなくせに、その実ちゃっかり済ませていることに興味が向いた。
「いつから狙ってたんだよ」
おもしろ半分に聞いてみる。
あれだけ目を惹く存在なら、競争率も高かったのではないかと予想した。
「覚えてないです」
「ここまで話しといてはぐらかすの?」
「本当に。物心ついたときからずっとなんで」
「おもしろくねーぞ、その冗談」
そう笑い飛ばしたけれど、神上から否定の言葉が続かない。佐野は筆を洗う手を止めると、神上を振り返った。神上の表情に冗談の色はない。佐野は笑った形のままだった口をゆっくりと閉じた。
「え。物心って…マジ?」
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