1: 後輩のつがい

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1: 後輩のつがい

「神上って、つがいいたんだな」  今は夏休みで、しかも日暮れどき。こんな時間に美術室にこもっているのは、美術部員でも佐野だけだ。  午前中は人もいたが、昼時に差し掛かるとどんどんはけていった。そこから集中にスイッチが入ってしまったようで、黙々と作業をしていたらしい。らしい、というのは、さっきまで昼を指していた掛け時計が、一八〇度進んでいたことと、部活中のはずの同室の後輩ーー神上がいたからだ。部屋と食堂で見当たらないから、夕飯を食いっぱぐれないように呼びにきてくれたのだろう。  神上は椅子の背もたれに肘をつくと、佐野の作業を見るともなしに眺めながら、律儀に片付け終わるのを待ってくれている。不愛想なくせに世話焼きで可愛いんだよな、とニヤけそうになるのを噛みしめながら、油絵具のついた筆を筆洗に入れ、一本一本ていねいに汚れを落とす。  その最中にあの日のことを思い出して口にしたのだった。  佐野が問うと、間髪入れず「はい」と返事があった。 「はえーよ。俺だっていないのに」  生真面目に「ほしいんですか?」と問われた。聞き返されると思わなくて、「いや、別に」と口ごもった。     
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