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雨は嫌いだ。
じめじめと湿気が多くなり、見てるこっちまで暗い気持ちになるからだ。
「雛ちゃん。帰らないの?」
私が教室の窓から外を眺めていると、ふと話しかけられた。
見るとそこには、クラスメイトの百合岡さんがいた。
私の名前---雛菊を略して“雛ちゃん”と呼んでくるほど話した覚えはなかったけれど、きっと人の懐に入り込むのが得意な子なんだろうな、と思った。
「百合岡さんこそ。まだ残ってたのね」
でも私はそこまで距離を詰められないので、百合岡さんと呼ぶ。
それよりも。
放課後の掃除もとっくに終わり、残っている生徒は私1人だと思っていたのに、何故百合岡さんがいるのかが不思議だった。
「委員会があったの。今から帰るよ!…雛ちゃんはもしかして、傘忘れちゃったの?」
「へ?」
百合岡さんは委員会終わりで教室に戻ってきたようだ。そして、心配そうに私を見てきた。
確かに外は雨が降っている。
百合岡さんは私が、帰らないのではなくて帰れないんじゃないのか、と思ったらしい。
「もしそうなら貸そうか?私、先輩と一緒に帰るから傘入れてもらえるし…」
私を見つめる純粋な眼差しが、少し痛い。
「ううん。一緒に帰る約束してる人がいるからその人を待ってただけなの。傘は持ってるから、大丈夫」
私はにっこり笑って、百合岡さんにそう答えた。
それを聞いて、百合岡さんはホッとしたような表情を浮かべる。
「それなら良かった!……待ってるのってもしかして彼氏さん?」
少しだけ間を置いて、百合岡さんはそんな事を聞いてきた。
教室で1人、誰かを待っているこの状況を見たら仕方ない。
でも。
「違うよ。彼氏じゃない」
私は冷静にそう答える。
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