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「なーんだ、違うのか」
百合岡さんは目に見えてがっかりと肩を落とした。もし彼氏なら、楽しい恋バナでもしようと思ったのだろうか。
「百合岡さんこそ…、彼氏さんかな?」
私は教室の扉を指でさす。
そこには、先ほどから男の先輩が立っていた。
私の知り合いではないから、百合岡さんの彼氏だと思ったのだ。
「先輩!いつからそこに…!」
「今来たところだよ」
百合岡さんが振り向いて先輩を確認すると、驚きと動揺をあらわにした。
そんな百合岡さんをなだめるように、先輩は優しく答えている。
「じゃあ雛ちゃん、また明日!」
百合岡さんは私に元気いっぱいに手を振った。
私も小さく手を振って、2人が幸せそうに帰って行くのを見送った。
「いいなあ……」
思わず声が漏れた。
恋人と一緒に下校するなんて、私には叶わぬ夢だ。
そんな事を考えながら、私は机に頬杖を突き、雨が降り続く窓の外をまたボーっと眺める。
「ヒナ」
突然名前を呼ばれた。
たった二文字だけど、耳に心地よい低めの声。
私はこの声を知っている。
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