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「…………先生」
振り向いて、先生に笑顔を送る。
「まだ残ってたのか?」
しかし先生は私の笑顔なんて気にも留めない様子で、眉をひそめた。
理由は簡単。下校時間を過ぎたのに、私が教室に1人残っていたからだろう。
「先生を待ってました。……って言ったらどうしますか?」
私は立ち上がり、ふふ、っと笑いながら冗談めいた事を言ってみた。
「あんまり大人をからかうな」
「私は至って本気ですよ?」
動じない先生に対して、私は畳みかける。それでも先生は、ぴくりともしなかった。
せっかくこちらが冗談を言っているのに、本気モードで返されては興ざめだ。
「先生。今日、うちに来ます?」
「…ヒナ」
「傘、忘れちゃったんです」
「は?」
さすがに怒られそうだったので、すかさず話題をすり替える事にした。
予想外の展開に、先生も呆気に取られていた。
「こんなに雨が降るとは思ってなくて、手ぶらで来ちゃったんです。だから、もし先生がうちに来るなら、車に乗せてもらおうかなー、なんて…」
嘘だけど。
本当は、スクールバッグの中に折り畳み傘が入っている。
けれど私は、持っていないと嘘をつく。
自分でもずるい事をしている自覚はある。
嘘をついている後ろめたさから、先生の目を直視できなくなる。
でも先生は優しいから。
私がこう言ったら、きっと断れない。
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