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意識を意識するようになると、まっ白だった。
しだいに、それは白い天井であることが分かった。
思い返せば、帰宅途中、横断歩道を渡る途中で、私は交差点を左折してきた大型トラックにぶつかったのだ。
しかし、こうして今意識があるという事は、私は生きているのか。
私はここが病院だと悟った。
体を動かそうとしたが、体が言う事を聞かない。体中の神経が繋がつてないようだ。
視線すら変える事が出来なければ、視点すら合わす事が出来ない。
私は何もできなかった。
只々ぼんやりと見えているだけ、といった感じだ。
しばらくすると、ぼやけた視界の中に妻の顔が大きく現れた。
涙でくしゃくしゃの顔で何かを言っているのだが、何も聞こえない。
妻とは今年で結婚三十年目の節目を迎える。子供達はもう社会人なので、結婚記念日には二人だけで海外旅行に行く計画をしている。苦労ばかりさせていても文句一つも言わないできた妻に、私の定年も先が見えているしこれからは少しでも楽をさせたい思っている。
やがて、妻の周りに2~3の白い影が現れた。
数分の間、妻と何やらやり取りをしているようで、その後、妻と共に白い影は視界から消えた。白い影は医師や看護師なのだろう。
翌朝、視界が蠢く影に覆われた。
何かわからないがただならぬ感じを覚えたので、ぼやけた視界に集中した。
すると妻や子供達、医師、看護師らが私に向かって手を合わせていた。
私はその意味を理解しようと苦しんだ。私は何一つ動けないが生きている。
妻や子供達はまだ手を合わせていた。
医師や看護師はキビキビと動きはじめ、私は殺されるのだと直感した。
意識がある事を伝えたいが伝える術がない。
私は奇跡的に意識がある。今後、意識だけある状態のままで生きていたとして、生きているといえるのか。そこには幸せはあるのか。
もうどうでもよくなった。そのまま殺してください。
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