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多分私はマゾヒストなのだろうと思う。
しょっちゅう買っている書物も、どこかそう言う退廃的な匂いの漂うものばかりで、呆れられている。家族からも。
その一方で私は図書館の司書で、一ヶ月に一度は読み聞かせ会に参加している。
でも私の選ぶ本は、どれも子どもには難しいのではないかって、毎回のように年配の司書にねちねちと言われる。
それでも子どもたちは、しっかり聞いてくれるのだからいいんじゃないかなあ、なんて思う。
ある日、毎回読み聞かせ会に参加している小さい男の子が、
「おねえさんのよむおはなし、おもしろいよねえ」
そう言って話し掛けてきた。
「あらどうして?」
尋ね返してみると、話自体は難しいけれど、なんだかためになる気がするんだとか。私の選択はやっぱりおかしかったわけでは無いのよ、と胸のなかで快哉を叫ぶ。こういう子どもだっているのだから、私のやっていることを一概におかしいと決めつけられるのは非常に心外だ。
子どもの生の声は大きな味方だもの。
と、その子は、不思議とにっこり笑って、私にこの本を読んで、とおかしいくらいにすすめてくる。
正確にはそれはスクラップブックだ。
私は不思議に思いながら、それを手にとってひらいて――
後悔した。叫びだしそうになるのを必死に堪える。
そこに丁寧にスクラップされていたのは、二十年以上まえに行われた殺人事件の、悲惨な顛末。
犯人は逮捕され、そして既に数年前に死刑が執行されている。
「やあっと、あえたねえ、**ちゃん」
知らないのに知っている名前。それは殺人事件の被害者の少女の名前。
男の子の瞳は濁っている。
『わたし』が最後に見た、おじさんと同じ色の瞳で。
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