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「ただいまー、みんな!」
内容を、理解してはいまい。
それでも、きっと、誰もが認識している。
その相手が自分にとって何なのか、どういう存在で、何をすればいいのか。
呼びかけに応答するのは、無数の鳴き声、駆ける足音。
町外れの一軒屋、玄関から入って呼びかけた彼女へ――大勢の、種類も様々な犬や猫が、部屋の中から廊下の角からやってきて、一斉に足元へ飛びつきじゃれつく。
「お留守番ごくろうさま! 早速ごはんにしようね、今日は一杯もらってきたから!」
動物というのは勘が鋭く頭も良く、こと食事に於いては敏感に学習する。僕が荷物を下ろし彼らはパッケージを見つけると、それまで朗みたいにじゃれつくどころかいつまで経ってもそけないこちらに対してもじゃばーっと押し寄せてきた。何とも現金に、エサのボウルを用意している僕のそこかしこをぺろぺろ嘗め、はやくはやくと催促してくる。
「あはっ! あははははっ! もてもてだねきぃくん、うらやましいなー妬けちゃうなー!」
ざらざらざらと複数のボウルにエサが行き渡り、犬猫は頭を突っ込んで食べ始める。
彼らはここでのルールを把握していて、自分の取り分を増やそうと、他の同居人を押し退けたり威嚇したりすることはない。
この家ではそういうことをしなくても理不尽に当然に奪われたりはしない、ということ以上に――自分がそういうことをすると、彼女がとても悲しそうな顔をすると知っているから。
だから、特別に分けなくても、すぐに混ざれた。
この家で一番の新入り、ぺーすけと名付けられた黒猫は、大きな柴犬の横に小さな顔を突っ込んで、ペットフードを食べ始める。
賑やかで、満たされていて、争いの無い、豊かな時間。
そんな様子を、朗はじっと眺めている。心の底から嬉しそうに、本当にほっとしたように。
「よかったね、ぺーすけ」
こうして彼女をいつものように、抱えきれない重い荷物を、まるで大切な宝物のように増やして笑う。
倉橋朗は、捨てられたもの、捨てられようとしているものを、見過ごせない。
本当に好ましく、ついぞ変わることの無かった、涙が出そうに誇らしい悪癖。
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