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 世の中には、どうしようもないことと、どうにかなることがある。  僕らに与えられたのは、それぞれがひとつずつ。 【どうしようもないこと】は、【時代】。  倉橋朗が産まれた時には、この星はもう、下り坂を転がっていた。  人類史、地球上に忽然と表れた【生存絶対不可能区域】――【無色彩空間】。  あらゆる生命が死に絶える、正体不明の現象は発生と拡大を続け、現代、人類の総数と生息地域は衰退の一途を辿っている。  起点と起源、いつ始まりなんでこうなったのか、詳しいことは歴史の彼方の藪の中。  なので、大部分は観測と推測での穴埋め。原因の欄に書き込むのが【神】とか【悪魔】とかがトレンドだった時代は随分古く、ここ何百年かはずっと候補にすら上がっていない。  理由としては単純に、あまりに理由が見えないこと。死と喪失をばらまいて、これ以上ないってぐらいに追い込みながら、神様も悪魔様も、一度として人々の前に姿かたちを表さず、何の要求も教訓も提示してはくれなかった。人々は疑問の答えをもらえないまま、ただ淡々と、漫然と、衰退と喪失と敗北と失敗が続いて続いて続いて続いた。  交流が無い相手を想い続けるのは難しい。薪を足さずに放置されれば、どんな炎もいずれは消える――要するに人類は、報われぬ恋に飽いたのだろう。この祈りは届かぬものだと、見切りをつけて、舵を切った。  守る意味なき操を捨てて、それからは貪欲に移り気に。  未知を空白のままとして放置出来ないのは種の性分か、時に噴飯物の道理が堂々と並べ立てられ、時にもっともらしい理屈が肌に合わずに蹴倒され、【原因】の欄に書かれる項目は、その時代の気風、流行を移す鏡となった。  目まぐるしく変わる代替。  その時々で最適の価値観。  人類は生きる為に、生き延びる為に、痛みと支払いを軽減する努力に最善を尽くす。  そして。  倉橋朗の世代では、世界滅亡の理由、簡単に修正のきくホワイトボードには、こういうものが収まっている。 【世界の寿命】。 【存在するすべてのものに果てがあるように、長く続いた惑星にも、命が終わる時が来た】。
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