[-2day]

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「ねえ、倉橋さん。あなた、ひどく目障りだわ」  ――と、いうわけで、朗報なのだが。  そんな時代であっても、人類というのはまことにヤンチャでハキハキと、同じ種同士で小競り合いなんかしたりする。  体育の授業中、公然と絡まれた。大陸由来だという鮮やかな金色の髪をした背の高い少女が、グラウンドの端まで響きそうな美しい声で、朗のことを責め立てる。 「見込みのない、色の薄い手合いに関わっている暇があるのなら、自らの価値を濃くすることに尽力なさい。分からないのかしら、足を引っ張るだけの粗悪にかかずらうのがどんなに無駄か。断言するけれど、あなたが成長する為の時間を奪っているその子は、倉橋朗が本当に誰かの手を求めなければならなくなった時、絶対に、手を貸しなどしませんよ」  軽蔑と敵意に塗れた言葉だが、実のところ完全に分がある正論だ。  僕たちの通っている【学校】は、協調や連携、博愛や慈愛を学ぶ場ではない。  教えられるのは徹底して知恵と術。【際立つもの】になること、【抜きん出たもの】を目指すことが是とされる、かつての繁栄期とは根本から意味の異なる学び舎で、或いは【訓練所】と呼ぶべき施設だった。  即ち、彼女の言う通り。並列より特出を生産する環境にあって、言語道断の行為といえた。  朗が今日もやっていた、与えられた課題をどうしてもこなせず授業に取り残されていたクラスメイトへの、つきっきりの助言など。 「そのような振舞いを見せられると、まわりの方が迷惑なの。あなたに空気を読めなんて、そんな高度なことを仕込むのはとうの昔に諦めたけれど――何度注意されても同じ違反を繰り返す以上、罰を受ける覚悟があるとはみなしてよろしいのよね?」  周囲がにわかにざわついていく。朗に絡んできたのは、何を隠そう総合首席――風紀指導の権限を持ち、多少の行き過ぎさえ先生から黙認される、最優秀生徒。  取り立てて我が強く、意識が高く、負けず嫌いで、ねちっこい。 「ええ、考えてみれば、本当に丁度いい。この場、公正にして明白な観衆の見守る中で、卒業前に決着をつけられるなんて。どちらが上かを骨の髄まで、証明しておけるだなんて!」
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