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火薬の気配に空間が開く。騒ぎを見守っていた生徒が、十分な広さを確保するように、巻き添えを食わぬように退避した。先生も、突然に始まってしまった騒動を、止めるのではなく値踏みの為に、状況をしっかりと確認出来る位置に着く。
気がつけば、人の囲いで構成された、特設リングの一丁上がりだ。
「レギュレーションはスタンダード。随伴無しの一対一、私とあなたの力比べ。――聞いているわねきぃくん、そこの過保護な甘やかし!」
「……はいはい、そりゃもう、わざわざ指差し釘刺さずとも」
ま、そうだよね。僕が混じっちゃったら、些か条件が変わり過ぎるし、そうなっては彼女の望むところではないだろう。……なので、その、こっちを対抗心マンマンな目で睨んでいる男子生徒くんには、是非とも勘弁していただきたい。
「武装を選び、精神を集中なさい。では二分後に始めましょう。今日こそ覚悟をすることね、倉橋朗。言葉で矯正出来ないなら、野良を屈服させるように、組み伏せて躾けてあげる」
鋭い目、甘い声。
右腰に中距離戦用の鞭、左のホルスターに近接牽制の模擬銃。徹底して相手を寄せ付けず、己の得意とする間合いで上位に立とうとするのが、彼女の得意とする作法。
捕食の喜びと嗜虐の愉しみに笑う様は優雅な蛇のようで、学校一の優等生はかすか、その可憐にして清楚なる表情の下に潜む本性を覗かせる。
――果たして。
そんな相手に睨まれてしまった本人、とうの朗は、
「うーんと。えっとね、みーちゃん」
「……気安いと前にも言ったわ。ふん、今更そんな媚びたところで見逃しなんか、」
「順番だからちゃんと待ってて? 今は鹿野くんの課題を一緒にやってるの。その後でちゃーんとかまってあげるから!」
ざわつくオーディエンス。倉橋朗、緊張感も緊迫感も欠如しきった、マイペースきわまる”ほにゃん顔”。
罵倒も挑戦も決め台詞も見事なまでに空振った“みーちゃん”は、
「ばーかばーかくらちゃんのばーか! やっぱりわたしあなたのことがきらいだわ!!!!」
生徒・先生の大半が【こうなるだろうな】と予想していた通り、毎度お馴染み、顔を真っ赤にして怒鳴った。
……今期首席、最優秀生徒、美荻漣。
倉橋朗とは、入学から九年越しの腐れ縁。
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