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「……うわぁ」
思わず声もそりゃあ出る。
本日のカリキュラムも終えての下校時。僕と朗は、校門の脇で、隠れもせずに待ち構える金髪仁王を見てしまった。
「怒ってる。あれ、すっごい怒ってるね。見つかったら絶対面倒なことになるけど、どうする朗――って、あ、」
出来るならば避けるが吉な面倒の予兆、だがしかしうちの放っておけないガールと来たら発見直後にロックオン、喜び勇んで駆け出して、
「あー! みーちゃんだ、みーちゃーん!」
「せいっ!」
「あうっ」
あっさりと迎撃されるK型ロケット。昼前の体育の授業、その決着の場面をなぞる形である――ただし、その時は攻守が逆だったが。
倉橋朗は方々に首をつっこむお節介さの塊だが、ことちゃんばらに於いては反対に、自分から攻めるのが苦手なのだった。
「マジにどういう神経してるのよあなた……こっちの心情とか考えないわけ……あれだけの観衆の中で、あんな大見得切っておきながら、無様にやられた私の気持ちとか……」
「すっごい楽しかったね! やっぱりみぃちゃんの動き、とってもキレイ! 見とれちゃわないようにするのが大変だった!」
勿論、この場合どちらが悪いって美荻が悪い。朗にその手の理解、矜持への配慮なんていうのを期待するのがまあ無理だ。
思えば九年間、彼女たちはいつもこうして食い合わない価値観で動き、一方的にぶつかってきた。
――僕はその中で、当事者だったことは無かったけれど、傍から見ていてこのちぐはぐは、なんというか、こう、微笑ましい。
「――ちょっと。何を笑っているの、そこの添え物。不愉快よ」
「え。いやだなあ、言いがかりだなあ、そんな顔してないよ?」
「は、まったく白々しい。気配が馬鹿にしてるの、明らかに!」
九年間、である。
添え物は添え物なりに視界の端ぐらいには捉えられていたようで、美荻は朗ほどではなくとも、基本的に分かりにくい僕の心情を察してくる。流石は首席、目配り洞察も一級品。
しかしパセリはひどいと思う。
言い得て妙ではあるけれど。
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