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〔Today〕
【色兵】について語ろう。
彼らは【星の延命】を目的とする作業従事者である。
生存絶対不可能区域たる無色彩空間、色兵はその拡大を食い止め、出来得る限りに地球を【命在れる場所】として長引かせる為に存在している。
【学校】と呼ばれる訓練施設で、九年間のカリキュラムにより育成された人員、二名一組――【彩】と呼ばれる遂行役と、その行動を援護する随行体の【描】、六十四対からなる一部隊が当該無色彩空間に派遣され、作戦を実行に移す。
この際の要点は二つ。
ひとつ。
色兵の活動は対症療法でしかなく、根本的な解決にはならない。
たとえ【繁栄期】の、人類が最多の数と最大の力を誇っていた時期の条件だろうとも、【色兵の育成期間及び色兵一部隊の挙げられる成果】では【無色彩空間が広がる速度を上回るのは不可能である】という計算が出されてしまっていること。
ひとつ。
現場に赴き、色兵としての役割を実行したのならば、その者は確実に死ぬ。
万が一にも――否、これまでの人類史上累計三千四十万千五百八十九名の投入記録を参照するに確定した事実であり、例外は有り得ない。
彼らは皆、志願兵だ。色兵とは、即ち【脱出の権利を与えられながら滅ぶ星に留まることを選んだ物好き】の、【無意味に等しい自己満足】に過ぎない。
現在地球上に住む人間たちからさえ、感謝も重要視もされはしない。色兵が上げる成果はそれほどに微々たるもので、自ら望んでやる意味も無い。だから誰にも強制されず、むしろ【色兵になんかなって命を無駄にするな】と誰もが言う。
――それでも。
意味が無いことと、意義を感じないことは別なのだと、いつか、彼女は僕に言った。
「えへ。どうかな、きぃくん」
春の朝日を受ける色。
青い空に映える色。
前日、学校の【卒業式】で支給された、色兵としての正式な装備――【色層衣】に身を包んだ朗は、くるりと回って、にこりと笑う。
それは、彼女の為に縫われたもの。色兵-彩、一人一人個々に異なる、この世にひとつしかない専用の一着。
倉橋朗に用意されたのは、そのまま式典にでも参加できそうなドレスだ。
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