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[-1day]
前日である今日は、正午に全カリキュラムを終えた後、放課後、自由参加の打ち上げが予定されていた。
先生やクラスメイトたちと、無礼講の大騒ぎ。八割ほどがこれに参加し、二割が辞退する。
美荻は首席の優等生らしく幹事を行い、僕と朗は、二割の側だ。
今日はもう、別の“打ち上げ”に参加する予定があると、断った。
「きれいだねえ」
放課後。
学校の屋上、縁の柵に寄りかかって、朗が呟く。
視線の彼方に映るもの、それは、地上から空へ――青の向こうのその先へ、遥か昇り、旅立って行く、逆さまの流星。
ステーションから打ち上げられる惑星間移民船、【希望艇】を、僕たちは眺めている。
「うまくいくといいなあ。しあわせになれるといいなあ、静馬さんたち」
静馬さんは僕たちの家の近所に住んでいた、三人と一体の家族だ。
人類が上り調子だった旧世代、いわゆる繁栄期と違い、現代では通常の生殖や婚姻で結びつく家族というのは滅多にいない。
静馬家も一般的な、相互管理の為に組まれた共同世帯のひとつだった。【父役】と【母役】と【子役】に、あと、もうひとり。
彼らと付き合いがあったかといえば、実のところ別に無い。三年前に一家が越してきた時に(朗が一方的にお祝いを持っていき)挨拶はしたけれど、それからは特に接点も――
――いや。一度だけは、あったのだ。
彼らがまだ、三人と一体ではなく、四人であった頃に。
「えっと。あれ、どこ行きなんだったっけ、きぃくん?」
「座標M97。大熊座、コロニー・オウル」
「いいところかな」
「幸福値は上位だったよ。最新版・前年度住民統計調査ではね。少なくとも――今の地球よりは、人も多いし、安全だし、笑っていられるところじゃないかな」
「そっかあ」
尋ねた彼女こそ、嬉しそうに笑った。
「そんなら、安心だ」
艇はほどなく大気を抜け、宙に飛び込み、新天地への長い長い航行に入る。滅びかけの地球へ、永久の別れを告げて。
燃えて煌めき果てまで飛んだ昼日中の軌跡、消え去った後もしばしの間、朗は空を見ていた。眼差しを送っていた。
此処より遠く往く者たちへ。
どうか幸あれと願うように、旅立つ背を押すように。
「元気でね、みんな」
星は滅ぶ。
けれど、人類は、その限りではない。
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