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表向きは普通の高利貸しでも、暴力団絡みの店はいくらでもある。昨日財布の中にあった数枚のローン会社のキャッシングカード。まともな会社のもあったし、ヤバイ会社のカードもあった。もしそこに五百万の借金をしているとしたら……「払えません」となれば、捕まって臓器を全部売ることになるだろう。借金も返せてお釣りがくるぐらい大金が入ってきても、もう本人は死んでいる。よくある話しだ。あとは切り刻んで、海にでも捨ててしまえば魚が全部食べてくれる。社会の脱落者がひとり、行方不明になっただけ。警察は取り合わない。そもそも捜索願いを出してくれそうな相手は居ないようだし。
ナツは俯いたまま爪を噛みながら、思案するように言った。
「……借金は、多分もっとあると思うよ。よく覚えてないけど……」
「いくらでも大丈夫だよ。後で返してくれれば」
「物好きだね」
「そっかな?」
ナツは顔を上げると黒目をグルリと天井に向け、それから俺と目を合わせて半笑いで言った。
「……プライドとか言ってる場合じゃないから、有り難く申し出を受けるよ」
「良かった」
ナツは俺の言葉に体の力を抜いた。足元にあったジャケットを手に取るとポケットをゴソゴソと探る。
「タバコ吸いたい」
「どうぞ?」
「酒も飲めないのは辛い」
「ははは。後で配達して貰うよ」
「……灰皿ある?」
ポケットからタバコを取り出し、火をつけて深く煙を吸い込むナツ。よっぽどニコチンが恋しかったようだ。口から白い煙を大量に吐き出す。途端に壁に設置してある空気清浄機が「毒だ!」と言わんばかりに作動し始める。
ナツが咥えタバコのまま、チラリと空気清浄機を見た。
「……ゴオゴオうるせぇな。こいつ」
「あははは。悪い。そいつそれが仕事なんだ」
「なるほど……」
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