北風と太陽

11/18
前へ
/18ページ
次へ
 表向きは普通の高利貸しでも、暴力団絡みの店はいくらでもある。昨日財布の中にあった数枚のローン会社のキャッシングカード。まともな会社のもあったし、ヤバイ会社のカードもあった。もしそこに五百万の借金をしているとしたら……「払えません」となれば、捕まって臓器を全部売ることになるだろう。借金も返せてお釣りがくるぐらい大金が入ってきても、もう本人は死んでいる。よくある話しだ。あとは切り刻んで、海にでも捨ててしまえば魚が全部食べてくれる。社会の脱落者がひとり、行方不明になっただけ。警察は取り合わない。そもそも捜索願いを出してくれそうな相手は居ないようだし。  ナツは俯いたまま爪を噛みながら、思案するように言った。 「……借金は、多分もっとあると思うよ。よく覚えてないけど……」 「いくらでも大丈夫だよ。後で返してくれれば」 「物好きだね」 「そっかな?」  ナツは顔を上げると黒目をグルリと天井に向け、それから俺と目を合わせて半笑いで言った。 「……プライドとか言ってる場合じゃないから、有り難く申し出を受けるよ」 「良かった」  ナツは俺の言葉に体の力を抜いた。足元にあったジャケットを手に取るとポケットをゴソゴソと探る。 「タバコ吸いたい」 「どうぞ?」 「酒も飲めないのは辛い」 「ははは。後で配達して貰うよ」 「……灰皿ある?」  ポケットからタバコを取り出し、火をつけて深く煙を吸い込むナツ。よっぽどニコチンが恋しかったようだ。口から白い煙を大量に吐き出す。途端に壁に設置してある空気清浄機が「毒だ!」と言わんばかりに作動し始める。  ナツが咥えタバコのまま、チラリと空気清浄機を見た。 「……ゴオゴオうるせぇな。こいつ」 「あははは。悪い。そいつそれが仕事なんだ」 「なるほど……」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加