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その日のうちに全ての借金を完済した。質の悪い会社も、金さえ払えば脅威でもなんでもない。ナツを助手席に乗せて一時間半。その一時間半で己の借金の整理が出来たことに、ナツは呆然としていた。でもしばらくすると前を向いたままペコリと頭を下げ、ボソボソ礼を言った。
「……ありがとう」
「うん。次は就職だね。あ、その前に」
「なに?」
「髪の毛、もう少し短くしようか? 長いのも似合ってるけど仕事するには不向きだ」
「ああ……うん」
前髪を指でつまんで引っ張り、上目で長さを確認するナツ。
「半年切ってないかな……」
「じゃ行こうか」
「まだどっか行くの?」
早く気分をラクにしてあげたくて、アルコールが抜けきってないナツを連れ回した。二日酔いのところを……。確かに疲れたかもな。焦らなくてもいいか。まだ一日目だ。
「じゃあランチして家へ帰ろうか? お腹も空いた頃でしょ?」
「……ランチ……」
ナツはぺたんこのお腹に左手を当て、摩った。
善は急げで九時に家を出た。今は十一時前だ。でも朝から二人とも水しか飲んでない。いつもの優雅な朝とは大違いだ。でも俺は凄く楽しかった。
「何か食べたいものある?」
「食べたいもの…………」
長めの前髪のせいで、横顔が半分隠れてる。陽の光を浴びたせいか、冷たく青白かった肌も今は優しげだ。口紅をつけてるわけじゃないのに尖らせた唇は妙に赤い。キレイな横顔だと思った。変わってしまったと思ったけど、高校の時とちっとも変わってない。変わったのは表情。あの頃のナツはこんな表情をしなかった。憂いを帯び、何かを思案する顔は儚げにすら感じられた。
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