146人が本棚に入れています
本棚に追加
引き込まれるように横顔を見つめていると、ナツがフッとこちらを向いた。
「緋砂ちゃん、青だよ」
「あ、ああ」
「タバコ吸ってい?」
「どうぞ。いちいち断らなくてもいいよ」
ナツはこの寒いのに、助手席の窓を全部下ろしてタバコを吸う。車内が煙の匂いと排気ガスと、北風で充満した。
「ラーメン……食いたいな」
「ラーメン?」
「美味しい店あるんだ。奢らせてよ」
「ああ……うん。ありがとう」
口から「俺が出すよ」と言葉が出そうになり止めた。
昨夜のナツを思い出したから。
まだ、ナツの意識がかろうじてあった時間帯だったと思う。二次会に行くか行かないか。ナツは「懐が寂しいから帰るよ」と返事をした。俺は、まだ一緒に居たくて「奢るから行こうよ」とナツを誘った。その時、ナツから言われた。
「あんたに奢られる側の気持ちなんて分かるもんか。バカにすんなっ!!」
いきなり怒鳴りキレたナツに、みんなが沈黙した。
ナツはずっと、静かなもんだった。みんなの話に耳を傾けて笑い、思い出話しにも「うんうん」と相槌を打っていた。結婚して子どもが出来たと言って画像を見せるやつの携帯を覗き込んで「可愛いじゃん」と褒めてもいた。
財布の中には一万円札が五枚くらい入っていた。
キャッシングした金ではあったけど、「懐が寂しい」わけでは無かった。そもそも、同窓会の為に用意した金では無かったのか?
俺にキレた後、ナツは黙って酒を飲み続けた。
そして酔い潰れてしまった。
ナツがあんな酔い方をしたのは俺のせいなのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!