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それでも言葉が出てこない俺に、ナツが肩を竦めた。
「金はちゃんと返すよ。感謝もしてる。だけど飼い殺されるのはごめんだよ。出てく」
背中を向けるナツ。
「ナツっ!」
引き止めたくて、背後からナツを抱きしめた。
そんな事をしている自分が信じられなかった。こんな風に触れることなんて、一生、出来ないと思っていたのに。
「緋砂ちゃん……」
「い、行かないで」
「俺、リストラされて借金作って、女遊びばっかして……こんなんだけど……」
「うんうん、そんでもいい」
「全然ダメな生活してきたけど……流石に男とはしたことないんだ」
「お、俺だってそんなの……へ?」
それ、どういう意味?
ナツは腕の中で体の向きを変え、俺を見つめた。至近距離の表情は、ちょっと困ってるって感じだった。
「だから、リードなんて出来ないよ? ……大丈夫?」
困ってる表情だったのに……最後の言葉は挑発的に聴こえた。
俺はナツを腕の中に囲ったまま、カウチまで押し戻した。
「緋砂ちゃん?」
ナツをカウチへ座らせ、隣に座る。ナツと再会して、こうやって隣に座るのさえ初めてだった。
「勉強は得意なんだよ」
心臓が口から飛び出しそうだったけど、そう言った。じゃないと、今度こそナツに呆れられてしまうと思ったから。
今こそヘタレを返上するんだ!
ナツは「フーン」という顔をして、唇を尖らせると俺の口に顔を寄せた。唇が俺のに軽く押し当てられ、驚愕する。
隣に座った途端、スキンシップのレベルが上がった!
ビックリして固まると、またナツが鼻で笑った。
「あれ……俺、そんなんじゃなかったのになぁ~」
「そんなんでも、どんなんでもいいよ」
今度は自分からゆっくり、ナツをカウチへ押し倒した。邪魔な布団やら毛布やら枕をラグへ落とす。ナツがカウチの下を見て、俺を見上げて言った。
「ココより……下に落ちた方が良さそうだね」
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