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午前七時、二階の寝室で目が覚める。一階へ静かに降り、ナツがまだグッスリ眠っているのを確認して、リビングの横にある書斎へ入り、秘書の岸へ電話を掛けた。
土曜日だし、まだ寝てるかもしれないな。
しかし予想に反して、岸はスリーコール鳴り終わらないうちに電話に出た。
「おはようございます。社長」
声もハキハキとしっかりしている。
「おはよう。朝早く悪かったな」
「いいえ。大丈夫です。もう朝食も済みました」
「おおー。そうか。それは良かった」
「はい。で、どうされました?」
「申し訳ないが、急用が出来た。今夜の会食と、明日のパーティーは出席をとりやめたい」
「かしこまりました」
「先方にはくれぐれも……」
「かしこまりました。会長婦人へはプレゼントとメッセージカードだけで宜しいでしょうか?」
「そうだな……。ゴールドに近い黄色のバラの花束も添えておいてくれ。ボリュームは岸に任せる。見栄えよく作ってもらってくれ。豪華なものが大好きだからな彼女は」
「六十歳になられますが、艶やかさは健在でございますね」
「そういえば、岸は結婚して何年になるんだっけ?」
「私でございますか?」
いつもはプライベートのことなど口にしない岸だ。俺の突然の質問に、面食らった空気が伝わってきた。
「そうだよ。岸は結婚記念日とか、奥さんの誕生日とか、ちゃんと祝っているのか?」
「……私はあまり、社長のように気が回らない人間でして……」
秘書としてこんなに気が回せるのに? おかしなものだ。
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