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「さすが社長さん。酒の席の戯言もよく覚えてらっしゃる。でも俺、記憶無いんだ。ごめんね? 忘れてくれる?」
ナツはそう言うとゆっくり立ち上がり、部屋を見回しながら、全然心のこもってない声でポツリと呟いた。
「一晩泊めてくれてありがとう。じゃね」
「五百万ならもう用意してある。借金取りに追われて住む場所もないんだろ? もちろん仕事も無い。全部用意してやれるよ? 社長だからね」
単刀直入。いや、身も蓋もない。と言った方がいいかな?
ナツは俺の顔を凝視して、またストンとカウチへ座った。
「俺、昨日……?」
ナツは爪を噛みながら眉間にシワを寄せ、忌々しいと言わんばかりの表情で言葉を吐き出した。
「……リストラされて、再就職もままならず、借金も膨らみ困ってる。同窓会に顔を出したのは誰か羽振りのいいやつに金を借りるため。だったかな?」
「あはっ……最悪だな……」
「俺もそう思うよ。最悪な状況とは言い難いけど、かなりまずい状況だよね。だからここは……俺の話をちゃんと聞いて欲しい」
「そんなうまい話、無いでしょ? で、緋砂ちゃんの目的はなに?」
すっかりひねくれたナツ。無償の援助なんて信じてないって顔してる。
「目的……そうだね。昔の友達に立ち直って欲しい。立ち直った姿が見たい。かな?」
「はぁ?」
ナツは目を丸くして、呆れたような声を出す。それをスルーして淡々と言葉を続けた。
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