青年

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青年

微睡んだ意識の隙間から 懐かしいようで、聴いた事のないような声で 繊細な割れ物の様な、星が瞬く様な 裏路地に忘れ去られた想い出の様な 溶け出した銀を塗り込めた様な歌声が聴こえる 星が泣く 海が哭く 夜が鳴く 泣け泣け泣け 哀しさを空に溶かして 夜と泣け 何故泣くのか解らないままに 何の涙か解らぬままに 謳うように 朗として 響け響け 落ちる涙の音色と共に 落ちて腐るように 息も吐けない程に 虚無あれば 引き摺る影が飲み込んで 這い回る浅ましさに 息乱れる犬のように 沈んだ足首と 膿んでしまった指先に 問え問え叶え 忘れるように 消えてしまうように 「さ...だん...」 「旦那さん」 深い海底から急に引き揚げられたように 「...あぁ」 意識が 頭が 目が 醒める 「えらい、ぐっすり寝てはりましたねぇ」 「...すまない」 匂い立つ様な白い喉首を晒して 婀娜っぽい彼女は、からからと笑う 「良いんですよ」 「少し微睡むつもりが」 男性にしては線が細く 透けるように白い肌の彼は 長い睫毛を申し訳ないと言う様に伏せる 「長旅で疲れてはったんでしょ」 「そのようです」 耳隠しが良く似合う 粋に着物を着崩した彼女は 私の答えを聞きながら茶を差し出す 「ささ、お茶でも。」     
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