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彼女が目を見開く。
意外だったらしい。
紗川のもう一つの仕事は探偵だ。コンサルタント的に警察に協力もしており、ある程度の収入にはなっている。もちろん、事業経営とは比べようもないほどささやかだ。
「探偵って、探偵? 真実はひとつっていう、あれ?」
「真実はひとつとは言いませんが……探偵ですよ」
「へえ、探偵かあ……浮気調査とか、するの?」
「当方は刑事事件が中心ですから、浮気調査などはしません。看板も上がっていないので、そういった依頼が来たこともありませんよ」
「刑事事件? すごーい。ドラマみたい」
酒の席だ。嘘も混ざっていると思っているのかもしれない。彼女はカラカラと笑い、カクテルを飲み干した。
「あー、美味しい。ねえ、マスター。これ、おかわりくださーい」
「飲みやすくても、度数は高めです、大丈夫ですか?」
「へーき。ねえ、それより、今までどういう仕事したのか気になるなあ。いろんな事件にあったりしたんでしょ?」
紗川の仕事に興味があるのか、立て続けに質問をしてきた。
(ここに英司がいれば、差し障りのない範囲で答えたんだろうが……)
信頼関係は大切だ。
「申し訳ありません。事実上、公の下請け業者のようなものですからね。立場が弱いんです。こちらから答えられることは何もないんですよ」
下請けという言葉に思い当たる節があるのだろうか。
彼女は「それじゃ、しかたないよね」とあっさり引き下がった。
拍子抜けだ。
もっと突っ込んでくると思っていただけに紗川は驚いた。
「あはは、もっとしつこく聞いてくると思った?」
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