2章 完全犯罪

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「太陽も離れてみれば小さな光になります。それよりも、名もない近くの星の方が、強く光って見えることもあるでしょう」  女は紗川の顔をしげしげと眺めてから、嬉しそうに微笑んだ。 「ねえねえ、わたしも同じの欲しくなっちゃった」 「同じだと、ノンアルコールですが」 「お酒入りがいいなあ……でもそうするとマンハッタンになる?」 「女王が嫌だというのでしたら、キャロルと言うものがあります。ベースをウイスキーからブランデーに変えただけで、見た目はほとんど変わりません」 「じゃあ、それ」  紗川は苦笑するとキャロルを注文した。外見が同じになるよう、中にチェリーを入れるように追加で指示を出す。 「頼んでくれてありがとう。ねえ、内緒にしてくれるならお礼にいいこと教えてあげる」 「何をです?」 「表の車の話、さっきしてたでしょ、店長と。持ち主、誰か教えてあげようか」 「ご存じなのですか?」  女はにっこりと笑って、自分を指さした。  紗川は内心眉を潜めたが、表情には出さずに「S2000?」とだけ答えた。 「車種、すぐわかるなんてすごいね」  持ち主に間違いなさそうだ。  酒をおごらせたのは、同類に引き込むためだったのかもしれない。 (やれやれ。これはうまく誘導する必要がありそうだ)  帰りは代行を呼び、繰り返さないように釘を刺さねばならない。  少なくとも、この店に乗り付けられるのは困る。  顧客の満足度を保ちつつ、間違いを正していくのは至難の業だ。  店長がカクテルを作りながら、心配そうにこちらを見ている。  紗川はそのまま作業と続けるように視線で促すと、隣の女性に向けて微笑みかけた。
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