87人が本棚に入れています
本棚に追加
クリスマスが近い。
小江戸川越の街並みは色とりどりの光を纏って人々を出迎えている。
本川越駅の前は川越駅前よりも落ち着いてはいるが、大きなツリーが飾られ、いつもより華やいでいた。
――触ってみたい? だめ、触らせない
紗川は、目の前に留まっている広告宣伝カーのモニターを眺めていた。
艶やかな髪に宝石のような光が波打つ。真っ白なシーツの上に広がるのは、手触りが良さそうな、思わず触れたくなるような髪だ。それをたっぷりと見せつけた後に、顔を上げた美女が微笑む。
一目でシャンプーの宣伝だと分かった。
宣伝カーの前では、はっぴを着てサンプルを配る男女の姿があった。
クリスマスとシャンプーとはっぴ、全く統一性がない。
眺めているうちにCMがまた再生された。どのタイミングで美女が顔を上げ、どんなセリフを言うのか、すっかり覚えてしまっていた。もう、何度見たか分からない。10回を超えたあたりからカウントをしなくなった。
(あいつが連絡もできずにいるという事は……事件が動いたという事か……)
静かに吐いた息が白い。
予想が正しければ、数分の遅刻どころではない。キャンセルの可能性もある。
待ち合わせの相手は、必ず10分前には到着しているような人物だ。それが5分過ぎても連絡をよこさないとはよほどのことがあったのだろう。
先に行っていると連絡をしようかと思った時だった。
ポケットから振動が伝わってきた。
「――はい」
『ああ、キヨアキ。ごめん』
最初のコメントを投稿しよう!