1章 カフェバー

2/7
前へ
/53ページ
次へ
 紗川はカフェバーのドアの前で足を止めた。 (ホンダS2000?)  大きなオープンカーが止まっていた。新しい車ではないが、まるで新車のような艶のあるボディだ。排気口にも煤がない。 (丁寧に乗っているな……目立つことはしていないようだが、足回りはいじっていそうだ)  チラリと見えるブレーキパットとサスペンションを覗き込んで確認してみたいが、行きつけの店の前で不審な行動をとるわけにもいかない。  ホイールとタイヤの組み合わせから、走らせることが好きなドライバーなのだろうと想像する程度にとどめておく。  それ以上に気がかりなのは、これほど丁寧に乗っている車が、駐車禁止の路上に止められていることだ。  フロントに回ると、案の定、違反を示すシールが貼ってあった。  紗川は違和感に顔をしかめた。  盗難車両の可能性もある。  古い車をきれいな状態で乗り続けるには、手間と金を惜しんではならない。艶やかな光沢は値の張るガラスコーティングをしているからだし、排気口に汚れがないのは日ごろからきめ細やかなメンテナンスをしている証拠だ。  そんな愛車をこんなところにとめるだろうか。  S2000の前には、駐車禁止のポールが立っている。まるで喧嘩を売っているかのようだ。 (店で聞いてみるか)  何かヒントになることがあるかもしれないと考えながら店のドアを押そうとすると、勝手に開いた。 「ありがとうございました」
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加