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どうやら帰りの客がドアを開けるのとタイミングが重なったらしい。カランカランと、ベルの音が軽やかに鳴る。
男が一人、店を出た。
車には目もむけず、真っすぐに駅に向かっていく。
どうやら今の客は車の持ち主ではなかったらしい。
「あ――こんばんは。お疲れ様です」
ドアをおさえていたバリスタに声をかけられ、挨拶を返す。アルバイトのように見えるが、この店の店長だ。
客を見送りに来て、紗川がいる事に気づいたのだろう。
「すみません、今の人、車を見てましたか?」
「いや、見ていませんでした。まったく気にしている様子もありませんでしたよ」
「そうですか……困ったなあ。その車、うちのお客さんが乗ってきたんじゃないかと思うんですよね」
客が車で来店していることを知りながらアルコールを飲ませると罰せられる。店主は知っていて飲ませたわけではないだろうが、気がかりなのだろう。
小さな店内だ。一目で全員がアルコールを摂取していることがわかった。
「駐禁のシールがフロントに貼られていますから、警察はチェック済みのようですね」
「こりゃ、まずいな……」
「車での来店に気付いていましたか?」
「後から分かったんですよ。帰ろうとしたお客さんが教えてくれまして。うちのお客さんでなければいいんですが……」
客ではない可能性もあるが、確率は低そうだ。
店長にいざなわれ、中に入ると、店内はほぼ満席だった。
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