87人が本棚に入れています
本棚に追加
「もし、ここの客だったら、会計時に代行を紹介しましょう。待っている間に一杯サービスすれば気を良くしてくれるかもしれません」
「そうします。良かったですよ、紗川さんが来てくれて」
店長は心底ほっとしたのだろう。ようやく笑顔を見せた。
この店は、紗川が運営するいくつかの店舗のうちの一つだ。
他はカフェだが、この店だけアルコールを提供している。
店内は歓談のささやきで満ちていた。
年齢の高いカップルや、ポジションが高そうな社会人がくつろいだ表情で笑っている。
壁際にはデザイン重視のピアノが置いてあるが、誰も気に留めていないようだった。
「席、一つ空いたところです。片づけますから待っててください」
「ああ、急がなくてもいいですよ。待ち合わせですから」
慌てて片付けようとする店長に荷物を預けて、紗川はピアノの前に座った。
椅子を引く音で、ピアノの前に誰かが座ったと気づいたのだろう。
歓談がやむ。
時間をつぶすにはちょうどいい。
鍵盤に指を乗せ、一呼吸おくと、紗川は初めの音を響かせた。
==蛇足==
紗川の収入源はこれです。
本人は「本業:探偵(ただし金にはならない)、副業:事業経営(金になる)」と言う意識で取り組んでいます。
別の作品でこれについて触れていますので、今回はこの程度で……。
※エブリスタ未公開、今後公開予定
最初のコメントを投稿しよう!