50人が本棚に入れています
本棚に追加
第3話【オンナって大変!】
リビングに入るとアンティークのダイニングテーブルに座る父親の姿が見えた。白髪混じりの黒髪を短く刈り込む相変わらずの髭面で、こちらを見ている。
「あっ、えぇ、おかえりオヤジ」
緊張してぎこちない挨拶をしてしまった。
はぁ、まいったな。意外にオレって繊細なのかも……。
椅子を引いてムックと無言で立ち上がると、オヤジがオレに近づいてくる。
うん? 何だか様子が変だな……。
目の前で立ち止まったオヤジの顔を見たなら、くしゃりと皺が集まり、瞳には涙を浮かべていた。
へっ、なんで? オレ、やらかしたか?
すると、突然!
「夕里乃!」
オヤジは死んだお袋の名前を叫び、オレをガシッと抱きしめた!
オヤジの胸板に顔面が押し付けられる。
はうっ、強く抱き締め過ぎ、どうした? ボケ始めたか?
「いっ痛、苦しいオヤジ」
オヤジには全く俺の声が届いていない。
「ちょっと、何やってるの! 父さん、正気に戻って!」
樹乃が、オヤジの異変に気づき声を張り上げた!
「おっと、すまない取り乱してしまった」
その声にハッとなるオヤジは、力を抜きオレを解放する。
「急にどうしたのよ? 父さん」
最初のコメントを投稿しよう!