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夏の来客たち
1.
夏はいつの間にか始まっている。
何となく予感めいたものはある。緑がむせかえるほどに生い茂り、空の色が濃く、雲の形が変わる。
──入道雲のようにもくもくしてきたら、それはもう夏の盛りだ。
そんなふうに美里は考える。
それから続けて、畳の上に寝転びながらつぶやいた。
「夏は嫌いなのに、思い出が多いんだよね」
美里のつぶやきは、完全な独り言となった。3Kのアパートは、一つ一つの部屋が狭く、築年数が古いので美里はいつも文句を言っていた。床はフローリングがいいし、白い壁紙がいい。
しかし、夏が始まる少し前に母が突然亡くなってしまうと、手狭だと思っていたアパートもがらんとしているように思えた。
母は美里が幼い頃に離婚し、一人で美里を育ててくれた。正社員ではなく、昼のパートと深夜の製造業をかけ持ちしていたのは、美里が学校から帰ってから眠るまでの時間を確保してくれようとする配慮だったのかもしれない。
父は母と離婚後、そう間を開けずに再婚していた。
「万が一お母さんに何かあったり、お父さんが恋しくなってもゆめゆめ連絡を取ろうなんて思わないように」
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