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母はくり返しそう言った。幼い美里は「ゆめゆめ」という言葉を辞書で引き、初めて知った。詳しい理由について母は語らなかったけれど、きっと美里が連絡を取れば何かよくないことが起こるのだろう、と雰囲気で察した。
父も母も嫌な思いをする、と最初は思い、もう少し大きくなってくるとそれは美里にとっても同じだとわかるようになる。
まだ高校に入ったばかりだった美里にとって、母の死はあまりにも大きかった。
失意ももちろんだが、煩雑を極める手続きの前に、美里の思考は停止しようとしていた。父に連絡するという方法が一瞬頭をかすめたが、「ゆめゆめ」だしなと思って踏みとどまった。いやその前に、父の最新の連絡先を美里は知らないのだった。
葬儀やお金の整理など、どうすればいいのか途方に暮れている美里に手を差し伸べてくれたのは叔母だった。母は三姉妹の真ん中で、長女である母の姉がすばやくかけつけて段取りをつけてくれた。
「奈々枝、どうしてこんなに早く……」
睦子叔母さんは家で存分に悲しんできたようで、美里の顔を見ると「さ、悲しんでばかりもいられない」と言って元気づけてくれた。
睦子叔母さんとその夫である叔父さん、いとこたちが代わる代わる家を訪れ、母の死にまつわる作業の他にも美里の食事の面倒などを見てくれた。
「ハツミにも連絡してみたんだけどね。連絡つかなくて」
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