豆と豆

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 「あの……狭いですよね」  冷静に考えればわかることだ。証明写真は一人で撮るもので、二人同時に撮るようには設計されていない。アミールが入るとその機械の撮影スペースはほぼ埋まってしまう。後ろに立ってみるが譲が小さく画面の隅に見えるくらいだ。どうしてここで写真を撮ろうと考えたのかとこまってしまった。  「ユズル、ここ」  アミールが自分の膝を指さした。  「はい?」  「ここに座って」  ぐいっと体を横から引かれブースの外に足が落ちそうになる。軽々と抱え上げられ膝の上に座らせられた。今度は自分の顔が画面いっぱいになる。アミールはくすりと笑うと後ろに体をずらした。譲の顔の上からアミールの顔が半分だけ見えている。  「アミール?これでは写りませんよ」  「そうですね」  アミールが譲の頬に自分の頬をよせた。  「ユズル、これで大丈夫ですね」  「えっ、ええ?」  何を持って大丈夫というのかわからないが、とりあえず顔は画面上に並んでいる。画面に示された顔の位置とはずれてはいるものの写真には二人並んで写るだろう。  出来上がった写真を見てアミールはご満悦だった。譲は自分の顔が端正な顔の横に並べられより貧相に見えると少し悲しくなった。そして肝心の着物はほとんど写っていなかった。  「これじゃ着物が分かりませんね」  小さい声で譲がその証明写真を見ながら肩を落とすと、アミールが自分の携帯電話を取りだした。  「これで撮りましょう」  「ん?携帯?」  「はい、ユズルが私に持っているかは聞かなかったので」  すっかりアミールにしてやられたようだ。アミールは右手を高く上げ携帯のカメラを自分たちに向けた。二人並んだ姿の写真が画面いっぱいに写る。最初からこれで撮れば何の問題もなかったのにと譲は思った。  「からかって楽しいですか」  「からかて?」  「No teasing.です!」  「違います、楽しいですよ。ユズルも楽しそうですよ」  くすくすと笑うアミールは本当に楽しそうで、ここ数日アミールは仕事で疲れているようだったと思い返していた。今日くらい遊んでも許されるだろう。譲は確かに楽しいかもしれませんねと笑顔で返した。  
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