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出会いはストロベリーアイスクリーム
「あ、そうだ忘れてた。君ね、明日から来なくて良いから」
「はい、えっ?えええっ?」
「いやね、会社整理するから。うん、適正価格で売れたけど。君は売れなかったし」
「いやいや、商品じゃねえし」そう突っ込む余裕はなかった。大学卒業して八年、愛着が無いと言ったら嘘になる。営業成績はそこそこだった、いやそこそこか?中の下くらいかもしれない。
そういえばそうだった、中学から成績は常に平均より少し下、決して目立たない存在だが邪魔にもならない存在。たとえブラック企業と言われようと生涯勤めればいくばくかの退職金が出て、老後は何とかなると思っていた。まさか三十を前にして無職になるとはと、重い足取りで家路につきながら、茂上譲は考えた。
ヤケ酒でも飲もうかと考えても、頭の中の冷静な部分が反論する。
「次の給与で最後、使い切ってどうするんだよ」幸い実家暮らしだ、出戻りの煩い姉が居るものの路頭に迷うことはない。取り敢えず明日ハローワークへ行く、それくらいしか出来ることはない。
混雑した地下鉄の駅に向かうのも辛くなり、とぼとぼと行くあてもなく歩いていた。華やかな街並は幸せそうな人であふれていた。
「あーーー、涙出そうだ」
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