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「仕事、終わりました?」
「あぁ、あ…あともう少し、あるかな」
榊原が、智子の横にしゃがみ込み、デスクに肘を載せて頬杖を付いた。距離の近さに智子は、ますます赤面した。
「あと少しなら、もう明日でいいじゃないですか。それより…メール見てくれました?」
「…あ、こ、これは、今日中にやらなきゃ…」
「あ、やってくれてるんじゃないですか、VLOOKUP」
榊原は、智子のモニターに映っているエクセルを差した。
「……なんで、こんな誘い方するのよ。直接メールに書けばいいでしょ」
「直接言うより、面白いじゃないですか。それに俺、マネージャーの仕事終わるの待ってて暇だったし、何か息抜きになるような事出来ないかなって」
……え、わざわざ仕事終わるのを待ってたの?
……今日だけじゃない。
……最近遅かったのは、ずっと私を待っていたって事?
「マネージャー、覚えていますか?俺に『VLOOKUP』教えてくれた事。もう3年前になるのかな…その頃に比べて、随分仕事量増えたし、俺がシステム配属になってから、話す機会も減って…って、それは置いておいて!最近…マネージャー溜め息多かったから、俺が…その、マネージャーの、いつもの笑顔を取り戻してやろうと思ったんですよ!」
強がりな言葉とは反面、自分の髪を弄びながら顔を俯かせている榊原を見て、智子の胸は息が苦しくなる程締め付けられた。そして、力の入らない手で持っていた書類に付箋を挟むと、榊原の頭を二度軽く撫でた。
「…仕方がないなぁ。飲みに連れて行ってもらうかな!」
デスクトップに映っていたエクセル、メールを閉じ、パソコンをシャットダウンする。
同時に、頬を真っ赤に染めた榊原が顔を上げ、勢いよく立ち上がると両手でガッツポーズを作った。そんな姿を見て、心底から笑みを浮かべた智子。
…私、やっと気になる人が出来たかも。
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