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「泣かないで、もう悪い人はいなくなったよ」
その若い男の微笑はどこか父に似ていた。
「おとうさん?」
「いや、・・・おじいちゃんだよ」
たしかに乱暴な男たちの姿はなかった。
「さあもうお行き、夜明けだ。それから、けっしてふりかえってはいけないよ」
若い男に促され少女は歩きはじめる。明るくなった室内は、あらゆるものが壊されていた。
ふと少女に疑念が生まれる。〈祖父〉と名のった男の姿を、もう一度見ておこう。そして父に伝えなければ。
そこには、昇ったばかりの朝陽に照らされ、白い灰がゆっくりと舞っていた。
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