第3章

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電話で約束した日の会話を思い出して1人で照れながら、何度目か分からない着信の確認をする。 するとタイミングよく着信音と共に、携帯が光った。 慌てて、携帯を開いてドキドキしながら通話ボタンを押す。 「もしもし」 「あ、俺。ごめん、周りがうるさくて。広崎、聞こえる?」 周りに他の人達もいるようで、賑やかな声が聞こえてくる。 「うん、聞こえる。あの、合宿お疲れ様」 「ありがと。さすがにバテた。朝からずっと、練習だもんな」 (おーい。加瀬、誰に電話してんの?) (そんなの、彼女に決まってんだろ。な?) 周りから冷やかすような声が、聞こえてくる。 「分かってるなら、邪魔するなよ」 あっさりと認めた加瀬くんのセリフに、周りから余計に冷やかしの言葉が飛び交い、受話器の向こうが騒がしくなった。 「ごめん。あいつらがうるさくて、ゆっくり話せないな」 「ううん。みんな仲良さそうだね」 「まあ、3日間で結構仲良くなったよ。あと、今日は代表選手以外も一緒に練習したから、大人数で余計に騒がしくって。 この後、みんなで何か食べて帰るんだ」 「あ、じゃあもう切らないと」 「うん、あと少しだけ。あのさ、大会の日なんだけど」 移動したのか、さっきよりも静かになり加瀬くんが話し始める。 「待ち合わせの時間遅らせたいんだ。それで、帰りも少し遅くなっても平気?」 「え?うん」 「その日、花火大会があるだろ。一緒に見に行きたいんだけど、いい?」 加瀬くんが、私と同じことを考えてくれていたことが、嬉しくて堪らない。 「っ、私も、行きたかったの」 「なら、決定。あー、余計に楽しみになってきた」 「うん」 「それじゃ、もう切るよ。ゆっくり話せなくて、ごめん」 「ううん、ありがとう」 幸せを噛みしめながら電話を切る直前、 (加瀬センパーイ、早く行きましょう) 遠くで、相沢さんらしき声が聞こえてきた。 そっか、相沢さんも一緒なんだ……。 その事に、ほんの少し胸がチクリとしたけれど、加瀬くんと花火大会に行けるという喜びでいっぱいの今の私には、胸の痛みは気にならなかった。
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