私が死んだ理由

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「私が死んだ理由はただひとつです……。幽霊は本当に存在する。そのことを証明するためです」 葬儀会場に設置されたスクリーンに男が映し出されている。 通夜に集まった参列者たちは驚きで声もでないようだった。 スクリーンの男は話を続ける。 「皆さんもご存じのとおり、私は心霊学者として長年、心霊現象研究に勤しんでまいりました。心霊にまつわる様々な資料や映像を集め、多くの方々の心霊体験を直接、聞きに行き、科学では説明のつかない幾つもの超常現象を解明してきました。その結果、幽霊は確実に存在するという結論に私が至ったことは皆さんも承知のことだと思います。詳しいことは私の著書、『絶対心霊主義』に記してありますので、ご興味のある方は店頭でお求めください。税込2300円で販売しております……んん」 スクリーンの中の男、つまり、私がひとつ咳払いをした。 会場は依然として静まり返っている。ここからだと、皆がどんな顔をして私の話を聞いているのかはわからない。 それにしても、ここは息苦しい。暗くて狭いところは昔から嫌いだ。さっさとここから出たい。棺の中で私は、早くスクリーンに映る自分が話を終えることを願った。 「私は、自分の研究結果に満足しています。勿論、この研究に懐疑的な目を向ける者たちが、少なからずいることも承知しております。しかし、私の論文を時間を掛けて検討すれば、いずれ彼らも認めざるを得なくなる。そう、私は信じています。それだけ、自分が導き出した結論に、強い確信を持っているのです。では、なぜ、今になって、私自身が死をもって、幽霊の存在を証明しなければならなくなったかと言いますと、その原因はただ一人。野村教授、あなたです」 ここでようやく会場がざわめきだした。 「なっ……」と慌てふためく男の声が聞こえた。野村教授の声だ。 棺の中からでは彼の姿を見ることはできないが、きっと目を丸くして、おろおろと立ちつくしているに違いない。いい気味だ。私は少し愉快になった。
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