私が死んだ理由

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顔の前にある棺の窓が開かれた。 野村教授がこちらの顔を覗き込んでいるのがわかる。 映画の特殊メイクなどを担当するプロのメイクアップアーティストが三時間かけて私を本物の死体のようにメイクした。私さえ動かなければ生きていることに気付くものは誰もいないはずだ。 「本当に死んだのか……」と野村教授が悲しげに呟いた「なんて馬鹿なことをしたのだ、きみは……」 彼は棺の窓を力なく閉めると、二、三歩、そこから後ずさった。 「野村教授! 大丈夫ですか? 顔色が……」と誰かが心配して彼に駆け寄ったが、 「さわらないでくれ。今日は、もうこのまま旅館に帰る。しばらく僕を一人にさせてくれ」と言って彼は一人、会場を後にした。 その後、騒然とする参列者を、葬儀会社の人間が仕切り、三十分ほど経った頃には、会場にはもう誰もいなくなっていた。 棺の中で自分の呼吸音に耳をすましていると、コンコンッと棺をノックする音が聞こえた。 「先生、西山先生!もう出てきても大丈夫ですよ」 声の主はこのテレビ番組のプロデューサーの佐竹だった。 棺の扉が開かれ、私は上半身を起こして深く嘆息した。 「いやあ、想像以上の良い画がとれましたよ! でも本番はこれからですよ!」と嬉々として彼は言った。 「あれ? どうしたんですか先生、そんな浮かない顔して」 「はあ……」と私は自分の顎を手でさすった。「ここまでやっておいてアレですが、なんだか、さすがにこれはやりすぎな気がしてきまして……。まさか野村教授があそこまで狼狽して私の死を悲しんでくれるとは……」 「何をおっしゃてるんですか先生!あの番組での恨みをお忘れですか? 彼はあなたを何百万の視聴者の前で笑い者にしたのですよ。今度は彼が笑い者になる番です」 「いや、私の目的は別に彼を笑い者にしたいわけではなく、あくまでも彼に幽霊の存在を認めさせたいという……」 「だからこそですよ!」と佐竹が身を乗り出す。
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