私が死んだ理由

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明日の葬儀に参列する予定の野村教授は葬儀会場の付近にある古びた旅館に宿泊している。私と番組スタッフたちはその旅館の脇にある空き地に、誰にも見つからないようにワゴン車をとめた。 私は再度、メイクを塗り直され、夜の十二時をまわる頃には、死体から幽霊に変貌を遂げていた。 これから行われるドッキリは簡単なものだった。旅館の二階の部屋で、一人眠っている野村教授をまずは不気味な物音で起こす。そして、彼が恐怖で顔を引きつらせているところに、立てかけておいた、二階に続く梯子を上って、私が窓から姿を現す。 悲鳴を上げる野村教授。隙を見て、また姿を消す私。そしてすぐさまスタッフと共にその場から撤収する。 その後、その日、行われる葬儀に寝不足で現れる野村教授。彼は怯えながら、棺の後ろの遺影に手を合わす。そこで『ドッキリ大成功!』というプラカードを持った私が棺の中から現れる。隠れていたカメラを持ったスタッフたちも、それと同時に会場になだれ込んでくる。 といったものだ。  「野村教授はまだしも、何も知らずに集まってくれた他の参列者たちや葬儀会社の人たちはさすがに怒り出しませんかね……」    「大丈夫ですよ!」と佐竹が私の肩を叩く。「後でちゃんと事情を説明すればみんな笑い話として済ましてくれますよ。なにせ、みんな、ドッキリは大好きですからね。はははは」 頭が痛くなった私はこめかみを指で押さえた。もう、なるようになれ、とそう思った。 時刻は午前一時。ドッキリは遂に決行された。 結果からいうと、ドッキリは成功した、といっていいのだろう。 幽霊に扮し、窓から姿を現した私が「野村教授……、あなたのことは許さない……」と台本通りのセリフを言うと、彼は悲鳴を上げ、恐怖でその場を転げまわった。 よし、成功だ。あとは姿を消すだけだ、と私は梯子に手をかけた。 すると、こちらが予想していなかった出来事も起きた。  なんと、恐怖で混乱した野村教授が、裸足のまま部屋を飛び出し、旅館から姿を消したのだ。
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