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「まさか、旅館から逃げ出すとはなあ。こんなことなら教授を追いかけるカメラマンも用意しておけばよかった」と佐竹が残念そうに口を尖らせた。
「いや、そんなことより彼を早く探しにいかないと」と教授を追いかけようとする私を制し、佐竹は言った。
「駄目ですよ。今、私たちが行ったら、葬儀でのネタばらしが台無しになります。大丈夫です。向こうもいい大人なんだから、しばらくしたら戻ってきますよ。さあ、我々は教授が帰ってくる前にホテルに戻りましょう」
そう説得され、半ば強引に車に押し込められると、私たちを乗せた車はホテルに向かって走り出した。
ホテルに着き、一刻も早く休みたかった私は足早に自分の部屋に向かった。しかし、上機嫌な佐竹にまたつかまってしまった。
「いやあ、いい番組になりそうです。こりゃあ高視聴率間違いなしですよ。先生。ちょっと気が早いですが、前祝として、みんなで一杯やりませんか」
「いえ、私は疲れているのでこれで」「いやいや、一杯だけですよ、一杯」
佐竹は無理やり私の腕をつかむと、そのまま自分たちの部屋に私を引きずり込んだ。
怒りに燃えていたとはいえ、教授を少し痛い目にあわせたい、そんなくだらない動機でこの茶番に参加してしまった自分自身に、私は心底うんざりしていた。
もう自棄だ。私は出されたビールの入ったグラスを次々に空にした。
「お、先生!いい飲みっぷりですね。こっちも負けてられないな。お前らもグイグイ飲めよ」
佐竹は他のスタッフを煽ると自分も一気にグラスを空けた。
気が付くと、この企画に参加している全員で、飲めや、歌えやの大宴会になっていた。
そして、あっという間に朝になった。
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