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──先生 ──西山先生
どこからか声が聞こえる……。立ち上がろうとしたが立ち上がれない。
そうか、まだ棺の中にいるのか……。しまった。ドッキリは失敗してしまったのだろうか?
──西山先生、起きてください
また声が聞こえる。飲み過ぎたせいで頭が痛い。
私はゆっくり目を開けた。それと同時に目を見開いて、悲鳴を上げた。
暗闇の中に顔が浮かんでいる。その顔がこちらを凝視している。
野村教授の顔だった。
「なんで、あなたがここに? いや、その前にこれは今、どういう状況なのだ?」
──やっと、起きてくれましたか。西山先生。僕はあなたにずっと声をかけていたのですよ。いやあ、それにしても、あなたたちにはしてやられましたよ。まさか全部、ドッキリのための嘘だったとは。見事に騙されて、恥ずかしい姿を見せてしまった。面目ない。
野村教授はニヤリと笑った。
私は顔を引きつらせながら眉根を寄せた。
「旅館から逃げた後、あなたにいったい何があったのだ?」
──あの後、恐怖でパニック状態に陥った僕は旅館の裏の山に逃げ込んで、そこで足を滑らせて首の骨を……。なんともまあ、我ながら、情けない死に方です。
「し、死んだのか? でも今、あなたはここにいるじゃないか……まさか、幽霊……、でもなぜ私の前に……」
──やだなあ。西山先生がご自身で言っていたじゃないですか。強い恨みを持った霊魂は生者に観察されやすいと。いったい誰のおかげでこんな姿になったと思っているのです?
「そんな……。悪かった。それは謝るから、とにかくここから出してくれ。話は後だ」
──駄目ですよ、先生。ここからはもう出られません。この棺は火葬場に運ばれ、今、火葬炉の中にあるのです。先程、点火スイッチも押されました。
「嘘だ! おい誰か! 佐竹! 聞こえないのか? ここから出してくれ!」
──残念ながら佐竹たちは今、葬儀場の控室でいびきをかいて眠っています。先生たちは、昨日、朝までかなり飲んでいたようですね。あれはそう簡単には起きそうにありませんよ。
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