ほんと、バカみたいだ。

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「おはよう」 昇降口で上履きに履き替えていると、横から声がした。顔を上げると、岩瀬が立っていた。白いワイシャツの襟を第二ボタンまで外している。彼の喉仏あたりに留まっていた汗の粒が、肌を伝ってシャツの中に滑り落ちるのが見えた。 「おはよう」 挨拶を返すと、 「おはよ。早川はまた遅刻?」 岩瀬は薄い唇の口角をキュッと上げて笑った。が、目が笑っていない。 「そういうアンタこそ」 私がそう言うと、はははと声を上げて岩瀬は笑った。 だけどやっぱり目が笑っていない。 その声、頬、唇、その仕草から、岩瀬が楽しそうにしているのは感じられるのに、岩瀬を構成する要素の中で、目だけが笑っていない。まるで目だけが別の意思を持っているかのようだ。それが私にはすごく奇妙に思えた。 本人はそれに気がついていないのだろうか? 人気者の彼に群がる女たちは、この彼の目に違和感を感じないのだろうか? 見た目もよくて、人当たりもいい。学校一番の人気者と言われる、この岩瀬という男のことが、私は苦手だった。
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